○子どもの居場所づくり事業 佐賀県唐津市
1.事業の概要
・ H16年度文科省の国庫委託事業として実施。これには全国で8000
箇所、88億円が投入された。H18まで3年間の補助事業。
・ 事業の愛称は「キッズ∞(無限大)」。安心できる「心の居場所」、異なる
年齢が交流できる「ふれあいの居場所」、体験学習ができる「楽しい居場
所」づくりを目指す。
・ 予算は2200万円/年、全額国庫補助。(議会議決を通さない)
2.事業の詳細
・ 現在、市内18箇所で実施。公民館、小学校単位で主催するが、中には
完全民間事業もある。
・ 組織は、市実行委員会のもと、各地域に地域スタッフ会議。活動内容は
そこで協議される。各公民館が事務局となる。ただし公民館事業ではな
い。
・ 市実行委員会メンバーは、市子どもクラブ、PTA連合会、ボランティ
ア協会、地域スタッフ会議の代表、幼稚園・保育園園長、小学校長、家
庭教育相談員、社会教育委員長、生涯学習課長など。事務局は教育委員
会生涯学習課。
・ 各事務局にコーディネーターを置く。研修会の企画、人材バンクの整備、
子どもの意識調査などで支援する。
・ 会員登録制としているところが多い。
・ 参加案内は春と秋、全小中学生に「じゆうちず」チラシを配布して周知
・ 指導者に謝金を出すところも出さないところもある。H18をもって国の補助金が打ち切られた後も存続できるよう、謝金を出さない。
・ 自己負担はスポーツ保険料年500円のほか材料代実費。ボールなどは共有して使用する。
・ 具体的な活動内容は、自然体験、スポーツ、お年寄りとの交流や遊び、囲碁、合唱、軽音楽、パソコン、読み聞かせ、英会話、ビデオ教室など
・ 毎週土曜日開催のほか、水・土、土・日開催などがある。週末型では、父兄が自己責任で送迎。水曜型ではスタッフが車で送迎しているものもある。
・ 事務局活動として、HPの開設、アンケート実施、リーフレット作成、研修会の実施など行う。
・ 平均して1回当たり20〜30名の子どもが集う。H16年度実績は、開催総回数645回、子ども参加者14847名、大人参加者3422名、合計18269名。平均子ども23名、大人5名であった。
3.感想
前記の「じゆうちず」と題した「子どものための居場所情報誌」、「きっず
∞」と題した年間活動紹介の小冊子をいただいてきました。
どのページにも元気に集う子どもたちの活動の写真が踊っています。また
「よろしく!大先輩」のグループでは「養老」でなく「幼老」共生、「高齢」
でなく「交齢」社会、という字が見えます。そして「お年寄りは子どもたち
から若さと活力と希望を、子どもたちは、人生の豊かさと素晴らしさ、先達
者の知恵・技など、お互いの宝を交換しあう」と書かれています。
子どものコメントも掲出されていて、「お母さんにすすめられて参加した。
お手伝いが楽しいし、みんなで作って食べるごはんがすごくおいしい」との
一文があります。
「じゆうちず」にはこの事業のほか「乳幼児・未就学児を対象とした「ち
びっこの居場所」のページほか、ジャンルに分けた詳細な案内が並び、「ちょ
っと参加してみようか」という気持ちにさせてくれる工夫がされています。
視察当日いただいた資料の中に、当日詳細な説明をいただく時間はなかっ
たけれども一読してよくわかる、重要な部分がありましたので、ここで紹介
します。
居場所づくりの課題として、
ア 作った「巣箱」に鳥は来ない
→大人が作る「居場所」の限界
イ 撒いた実を決まった鳥が食べていく
→忙しい子が掛け持ちでやってくる、居場所のない子は振り向かない
ウ 「巣箱」を買うお金、小鳥を見守る親鳥集団
→ないところに、居場所を作るには、コスト(お金)をかけるか、無償で汗をかける大人集団をつくるか
続いて運用上の課題として、
ア 経理の複雑さ
イ 子どもの安全確保
ウ 19年度以降(国庫廃止後)の対応
の3点が列挙されています。
まことに、このとおりだろうと思います。
年間予算2200万円、100%国庫負担。
市町村のみならず国全体の問題として、この課題は非常に重要であり、だ
からこそ国も力を注いでいます。しかし現実問題として、財源確保はどの市
町村にとっても悩ましくのしかかります。そしてまた、上記のように、その
内容の成否が問われます。お金を投入して、ハコモノを作るのとは違う難し
さもあると思います。
「あれもこれも」の時代から「あれかこれか」の時代へ、とは、市長もよ
く使う言葉です。まさしく、市民の理解と協力を得て、こうした子どものた
めの施策が、できればなるべく多大な予算を伴わずに実現できることを切に
願うものです。丸亀市における既存の「青い鳥教室」をはじめ、子ども会活
動やPTA活動、さらには老人会婦人会といった諸活動がまずひとつのテー
ブルに就くことが必要となります。「お金がもらえるから」でなく、「自腹を
切ってでも」という意識で、今の丸亀市においてこの制度の立ち上げが可能
なのでしょうか。どうすれば可能なのか。いちばんの早道は「市長の一声」、
これでしょう。その「一声」が、どこまで市民の「心」にまで響くのか、言
葉を変えれば、その市長の熱意を体して、職員スタッフがどこまで市民に働
きかけることができるのか、そこにかかっていると思えます。唐津市と丸亀
市とで、そこから先の方法論は違ってくることでしょう。
先ほど紹介した一節、「無償で汗をかける大人集団」を、どのようにして作
っていくのか。子どもたちはこれを希求していると思うのですが。
説明担当者から、「最初は休日の学校を開けることに、学校側は冷たかった」
との率直な話をいただきました。そうだろうと思います。そしてその先には、
「行政が作った巣箱に、子やその親たちが来てくれるのか」という心配もあ
ります。
私は、市民、なかんずく子どもたちの将来を見据えて、行政は、「国からカ
ネが出るから動く」のではなく、「必要ならば市民をかき口説く」という姿勢
になっていかなければならないことを痛感します。丸亀市でもこの問題につ
いて何の手も打っていないわけではなく、また市民の意識がまったくないの
でもありません。そうすると、行政、とりわけ市長が、このことにどこまで
熱意を注ぐかであり、議会がどこまでそれに対して後押しするかの問題だと
いうことになります。
決して容易な決断ではありません。しかし、市の自主財源100%である
にしても実行する価値のある、またやらなければならない事業ではないかと
思います。
いただいた資料の締めくくりに、次のようにありました。
「高齢者の活躍の可能性∞(無限大)」
子どもの居場所づくりという事業が、単にそれだけで完結するのでないこ
とをよく示した言葉だと思います。これからの行政のお金の使い方は、この
ように、これまでの「タテ割り」行政では不可能だった、横断的、戦略的な
ことをやっていかなくてはなりません。
後日、公明新聞では唐津市の誇る名勝である「虹の松原」がピンチ、とい
う報道がなされ、そこには市民あげてのボランティアの模様が載っていまし
た。これらが物語ることは、観光、教育、子育てなど、あらゆる行政の部門
が有機的に連絡をとらなければならない時代であるということではないでし
ょうか。「行政は市役所に任せる」という時代ではなくなりました。ヘタをす
れば、行政の仕事を何でも市民にタダ働きさせる、という市民の反感もいた
だくでしょう。難しい、しかし、やりがいのある局面となりました。
役所、議会ともども、市民といっしょに知恵を絞り、汗を流す時代が到来